
産業廃棄物のマニフェストとは、産業廃棄物が適切に処理されたかどうかを確認するために、最終処分されるまでの流れを追跡・記録するための伝票です。
産業廃棄物の不法投棄や不適切処理を防止するために、産業廃棄物の処理を外部に委託するには、マニフェストを交付しなければなりません。
本記事では、産業廃棄物のマニフェストとは何か、その概要や運用方法について初めての方にもわかりやすく解説します。
なぜ産業廃棄物のマニフェストが法律で義務づけられているか
産業廃棄物のマニフェスト(以下マニフェスト)の交付は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下廃掃法)」第12条の3により、産業廃棄物を排出する事業者に発行が義務付けられています。
収集運搬業者や処分業者に委託する際、産業廃棄物と一緒に交付したマニフェストを渡さなければなりません。
運搬や処分が完了すると、その処理の内容を記録したマニフェストが、排出事業者に返送されます。
返送されたマニフェストを確認することで、産業廃棄物の処理の流れを追跡し、不法投棄などの不適切な処理を防ぐことが目的です。
マニフェストに関する義務を怠った場合には罰則があり、廃掃法第25条から第30条に明記されています。
例えば、マニフェストが必要であるにもかかわらず交付しなかった場合や、虚偽の記載をした場合は、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が課せられます。(廃掃法第27条の2)
産業廃棄物のマニフェストは紙と電子のどちらがいいの?
マニフェストの運用方法には、紙と電子の2つがあります。
多くの場合で推奨されるのは、運用や管理の負担が少ない電子マニフェストです。
ただし、電子マニフェストの利用には基本料や使用料がかかることから、コストを考えると、産業廃棄物を頻繁に排出しないのであれば紙マニフェストの方がよいケースもあります。
紙マニフェストと電子マニフェストのメリットとデメリットを踏まえて、どちらを使うか検討しましょう。
紙マニフェスト
紙マニフェストのメリット・デメリットは次のとおりです。
【メリット】
・運用にかかるコストを抑えられる
・事前準備が不要ですぐに作成できる
【デメリット】
・紛失・記入漏れのリスクがある
・保管や管理に人手や手間がかかる
・自社で紙のマニフェストを5年間保管する必要がある
紙のマニフェストは、電子マニフェストとは異なり利用料や環境設定も不要であるため、すぐに運用を始められます。
マニフェストの様式も法律で決まっているわけではなく、必要事項を網羅していれば自作のフォーマットを使っても問題ありません。
より簡単に運用を始めたい場合は、必要事項が網羅された市販の様式が販売されています。建設業で使いやすい様式や積み替え保管の場合に便利な様式など、業種や処分のフローに合わせた様式を購入すれば、よりスムーズに運用できます。
一方で、紙マニフェストは返送されてきたマニフェストの整理や控えの保管などを人の手で行わなければなりません。そのため、紛失や破損、記入漏れといったミスが発生するリスクがあります。
電子マニフェストに比べると、手間がかかることは理解しておきましょう。
電子マニフェスト
電子マニフェストのメリット・デメリットは次のとおりです。
【メリット】
・事務処理の作業を効率化できる
・入力の漏れやミスを防止しやすい
・いつでも閲覧できデータの透明性を保てる
・保管の負担が少ない
・年1回の産業廃棄物管理票交付等状況報告書の提出が不要である
【デメリット】
・利用料がかかる
・収集運搬業者・処分業者が加入していないと利用できない
・システムがダウンすると利用できない
・インターネットやデバイスがない場合は導入・購入する必要がある
電子マニフェストを運用するためには、日本産業廃棄物処理振興センターが運営する「JWNET(電子マニフェストシステム)」に加入する必要があります。IDとパスワードを取得するとブラウザ上で操作が可能です。
電子マニフェストであればネット上で運用が完結するため、返送や管理の手間が省け、返送したマニフェストが相手に届くまでのタイムラグもありません。
保管も情報処理センターで保管されるため、紙マニフェストのように保管場所の問題や紛失のリスクに悩まされずに済みます。
ただし、JWNETを利用するには利用料がかかります。排出から最終処分までの一連の工程管理を行うマニフェストを電子化するには、排出事業者だけでなく収集運搬業者・処分業者もJWNETに加入しなければなりません。マニフェストの電子化を検討する場合は、収集運搬業者や処分業者も対応可能であるか確認しておく必要があります。
産業廃棄物のマニフェスト運用の流れ
マニフェストは産業廃棄物を引き渡す際に交付し、収集運搬や中間処理・最終処分など、1つの工程が完了すると業務を行った当事者が完了報告を行います。基本的な運用の流れは、紙でも電子でも同じです。
以下では、紙マニフェストの具体的な運用の流れをみていきましょう。
紙マニフェストの運用の流れ

紙のマニフェストは全部で7枚綴りの複写式です。
まず、排出事業者が産業廃棄物を収集運搬業者へ委託する際に、マニフェストを記載して交付します。A票は排出事業者が保管し、残りは収集運搬業者へ渡します。
次に、収集運搬業者は中間処理業者へ産業廃棄物を運搬します。収集運搬業者は、受託の控えとしてB1票を保管し、収集運搬が完了したらB2票を切り取って排出事業者に返送することで収集運搬報告をします。
中間処理業者は、受託の控えとしてC1票を保管しなければなりません。中間処理が完了したらC2票を収集運搬業者へ、D票を排出事業者へ返送することで中間処理終了を報告します。この時の処分が最終処分である場合は、最終処分終了の報告として、排出事業者へE票も返送します。
産業廃棄物の最終処分は、中間処理業者から最終処分業者へ委託して行われる場合もあります。その場合は、中間処理業者が排出事業者の立場となり、マニフェストを交付します。
排出事業者が交付するマニフェストを「1次マニフェスト」、中間処理業者が排出事業者の立場(最終処分の委託者)として交付するマニフェストを「2次マニフェスト」と呼びます。
紙マニフェストの伝票ごとの役割
紙マニフェストの各票は、それぞれ次の役割を持っています。
A票:排出事業者の産業廃棄物引き渡しの控え
B1票:収集運搬業者の受託の控え
B2票:収集運搬業者が排出事業者へ運搬完了を報告するもの
C1票:中間処理業者の受託の控え
C2票:中間処理業者が収集運搬業者へ中間処理完了を報告するもの
D票:中間処理業者が排出事業者へ処分完了を報告するもの
E票:中間処理業者が排出事業者へ最終処分完了を報告するもの
紙マニフェストの返送期限
紙マニフェストの返送には期限があります。
収集運搬終了報告のB2票、処分終了報告のC2票・D票は、業務終了から10日以内
最終処分終了報告のE票は、2次マニフェストでの最終終了報告を中間処理業者が受領してから10日以内
に返送しなければなりません。
ちなみに、電子マニフェストの場合は、引き渡しの翌日から3日以内に登録し、運搬・処分の報告も完了の翌日から数えて3日以内に登録する必要があります。
産業廃棄物のマニフェストを交付した場合は年に1回行政に提出が必要
紙マニフェストを交付した場合は、「産業廃棄物管理票交付等状況報告書」を提出しなければなりません。
マニフェストの交付枚数や産業廃棄物の排出量に関係なく、紙マニフェストを1枚でも発行した排出事業者すべてに提出が義務付けられています。
なお、電子マニフェストの場合は提出不要です。
報告書の提出先は、都道府県または政令市です。産業廃棄物を排出した事業所のある地域を管轄する行政に提出する必要があります。
排出事業場が複数ある場合は、それぞれ事業場ごとに報告書を作成し事業場を管轄する自治体へ提出しましょう。
提出期間は毎年4月1日から6月30日までの間です。前年度分(前年4月1日〜報告する年の3月31日)のマニフェストについて報告します。
最終処分業者から返送されるE票がまだ届いていないものなどについても、報告が必要です。「返送されてきたもの」ではなく「交付したもの」のすべてが対象となります。
報告書の詳しい内容については、以下のコラムをご覧ください。
産業廃棄物のマニフェストの保管期間
マニフェストの保管期間は5年間です。
紙マニフェストの場合、排出事業者のもとに保管すべき伝票が戻ってくるタイミングは、バラバラであることも少なくありません。
後々のトラブルを防止するために、排出事業者はE票が手元に届いてから5年間保管することが一般的です。
それぞれの事業者が保管すべき紙マニフェスト伝票は次の通りです。
排出事業者|A票・B2票・D票・E票
収集運搬業者|B1票・C2票
処分業者|C1票
なお、電子マニフェストの保管義務は排出事業者ではなくJWNETに課せられています。電子マニフェストを運用する場合、排出事業者は自らでのデータ保管を気にする必要はありません。
産業廃棄物のマニフェストの書き方
マニフェストには必須の記載項目があります。それぞれの項目と書き方について、以下の通りです。

・交付年月日:マニフェストの交付年月日には、産業廃棄物の引き渡し日を記載します。マニフェストの返送期限を計算するために重要な日付のため、正確に記載しましょう。
・交付番号:マニフェストの交付者が管理しやすいよう番号を振ります。10桁の番号で管理します。
・交付担当者:マニフェストの交付を担当した者の氏名を記載します。名字の印鑑やサインで済ますのではなく、フルネームを記載しましょう。
・事業者(排出者):産業廃棄物を排出する事業者の名称または氏名、住所を記載します。
・事業場(排出事業場):産業廃棄物を排出する場所の名称と住所を記載します。上記の事業者と同じである場合のほか、同事業者の支店や工場、建設・工事を行う現場などを記載する場合もあります。
・産業廃棄物:排出する産業廃棄物の種類を選んでチェックを記載し、数量や荷姿、名称などを記載します。備考・通信欄で当てはまるものがあれば、こちらもチェックを入れなければなりません。
・最終処分の場所:最終的に産業廃棄物の処分を行う場所を記載します。委託契約書に記載している場合は、チェックを入れることでマニフェストへの記載を省略できます。
・運搬受託者:運搬を委託する事業者の名称または氏名、住所を記載します。
・運搬先の事業場(処分事業場):産業廃棄物を運び入れる事業場の名称と住所を記載します。
・処分受託者:処分を委託する事業者の名称または氏名、住所を記載します。
・積み替え又は保管:処分する場所へ運搬する前に、別の場所で積み替えや保管を行う場合は、その場所の名称と住所を記載します。
産業廃棄物のマニフェストが不要な場合とは?
次の委託先に産業廃棄物の処分を依頼した場合は、マニフェストの交付は不要です。
・国・都道府県・市町村
・都道府県知事の指示を受けた業者
・再生利用認定制度の認定を受けた業者
・環境大臣から広域的処理認定制度の認定を受けた業者
・専ら物(もっぱらぶつ)の処分業者
・産業廃棄物を輸出する業者
・湾岸管理者・漁港管理者(廃油処理)
・海洋汚染防止法の規定認可を受けた業者(廃油処理)
国や自治体の一部のほか、自治体や行政から指示や上記の認定を受けている業者に産業廃棄物の処分を委託する場合は、マニフェストの交付は不要です。
「専ら物」とは古紙・空き瓶・空き缶・古繊維・くず鉄(スクラップ)などのことです。産業廃棄物の処分業を営むには許可が必要ですが、専ら物の処分業には許可が不要であるため、マニフェストを交付する必要もありません。
海外へ渡った産業廃棄物を追跡する必要はないため、海外に輸出する業者へ処分を委託した場合もマニフェストは不要です。
ただし、マニフェストが不要な上記のケースでも、産業廃棄物処理委託契約書は必須です。
産業廃棄物処理委託契約書とは、産業廃棄物の排出事業者と委託業者との間で交わす契約書で、産業廃棄物の種類や量、処分方法などを記載します。
契約を締結せずに処分を委託した場合には罰則があるため、忘れずに取り交わしましょう。
産業廃棄物のマニフェストでお悩みならGreen propへ相談しよう
産業廃棄物の処理を委託する場合は、マニフェストの交付が不可欠です。
紙マニフェストの運用はすぐに始められますが、収集運搬業者や処分業者から伝票の返送を受ける必要があり、管理に手間がかかります。
一方、電子マニフェストは管理の効率化が期待できるものの、費用がかかる点がデメリットです。
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Green propは、産業廃棄物の収集・処分業者の選定や法律に沿ったマニフェストの運用などによって、産業廃棄物の適正な処分をお手伝いしています。
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また、マニフェストの運用は法令で定められている義務事項です。
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